お姫様は海に恋い焦がれる
第1章 壊れてゆく運命を、リボンで
* * *
「失敗、しちゃった」
みちるが目覚めると、昨夜腕の中でいとけない寝息をたてていた姫君が、無邪気に笑った。
月の光を吸った金髪、ウサギ柄のパステルピンクの寝間着に同化せんばかりのミルク肌──…見事に白と薄紅の濃淡だけに覆い尽くされた柔肌の少女の指に、パステルピンクのリボンが絡みついていた。うさぎが睡眠時にだけ髪を結う薄紅のリボン、それら二本の内一方が、お団子から外れていた。
眠りから覚めたばかりの二人は、あさぼらけの光がほのかに差す寝台にいた。
みちるの私室だ。
ここにうさぎを泊めたのも、今や何度に及ぶのか。
うさぎは憂惧をもて余すと相手をリボンで結びたがる。現実に動きが封じられるほど纏縛された者の話は聞かないが、それでも懲りずに結びたがるのだ。
みちるはうさぎの繊手を握る。
昨夜は確かに月の錦糸を結んでいた、妬ましいパステルピンクが、指先にやおらまといつく。
「どうしたの?怖い夢でも見たのかしら」
「むぅ……みちるさん、起きたばかりなのに鋭いです」
「貴女のことだもの。眠っていたって、分かるわ」
「──……」
柔らかな身体を抱き寄せる。
あたたかくて頼りなくて、本当に小動物をいだく錯覚にいざなわれる。それでいて、胸が顫える。恐ろしいほどの恍惚、こんなものは、少なくとも本物の小動物には覚えない。