お姫様は海に恋い焦がれる
第1章 壊れてゆく運命を、リボンで
みちるの胸をくすぐる吐息が、ぽつ、ぽつ、と、甘い声を連れてくる。
戦士の強さに潜んだ脆さ、うさぎの深淵に根づく、守られるために生まれたプリンセスのやんごとなき儚さが、口舌になって吐き出されてくる。いなくなった衛のこと、ギャラクシアのこと、謎の三人の戦士のこと、空から降ってきた小さな少女のこと──…そして、今度こそ銀水晶の力を以てしても、否、壊れてはならない未来のために奇跡の力を払底させてしまうかも知れない恐怖が、うさぎの胸を追いつめていた。
みちるはうさぎと一緒になろうと決めた。
月の王国にいたネプチューンは、クイーンの命令で彼女を離れねばならなくなったが、今は違う。
側にいて、うさぎと一緒に生きられる。戦士としてだけではない、あの頃、身分という壁に認めることすら戒められた想いを以て、側にいられる。
リボンで運命を繋ぎとめられるか。
目茶苦茶な発想だ。目茶苦茶な発想があどけない。愛らしい。さればこそ愛おしい。
「うさぎ」
みちるはうさぎを腕の中に捕らえたまま、空っぽになるなど夢にも考えられないこのぬくもりに向かってささめく。
「リボン、亜美や美奈子達にも試したの?」
「ふぇ?」
「私の他に、誰を繋ぎとめようとしたの?」
「あ、えっと、それはですね」
亜美ちゃん、美奈子ちゃん、レイちゃん、まこちゃん、ほたるちゃん、なるちゃん、ルナ──…。
と、うさぎの素直な唇が、彼女のたくさんの大切な人の名前が連ねていった。衛の名前は出てこない。だが、行方さえ知れていたなら、無邪気な序列に含まれたろう。小さな鬼胎に怯えるくせに、このプリンセスは欲張りなのだ。すこぶるたくさんのものを抱えていたがる。