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お姫様は海に恋い焦がれる

第1章 壊れてゆく運命を、リボンで



 あっ、と、うさぎの起き抜けの唇から、たどたどしい声が上がった。

 みちるはくすぐったい指先から奪ったリボンをひと撫ですると、うさぎの手首に巻きつけた。ほんのり青い、海王星の色の動脈を透かした手首、まばゆい真珠の柔肌に、パステルピンクが模様を描く。結んで、更に蝶の形に結った。左側の後翅だけは長めに残して、みちる自身の薬指に巻きつける。

「──……」

「…………」

 みちるの薬指とうさぎの手首が、果敢ないリボンに繋がれた。だが、強い。プリンセスを繋ぎとめる罪責感、恋人に所有される法悦が、理性の崩壊をそそのかす。たゆんだ運命が修復されてゆくのに相反して、愛念の堰が切れたように、骨の髄が熱くなる。

「あ……の、……みちるさん?」

「良いわね、こういうの」

「──……」

「うさぎ」

 はい、と、小さな頬のミルクの中に沈んだ薔薇が、盛り上がった。

「貴女は私が……私達が守るわ。命に代えても。それで足りないなら来世も擲つ」

「やっ、でも……」

「いや、とは言わせなくてよ」

 みちるは自由な片手の人差し指の先端を、わがままなプリンセスの唇にあてがった。

 清冽な青、聡明な青、かつては地球の色を映していたが、今は、みちるの故郷の青に重なる。隅々まで愛でたい体温、存在感、甘い声、うさぎを形成している何もかもが愛おしい。だが、何よりかえ難いのは、うさぎを動かす精神だ。この小さな胸の中で、間断なく躍動しているやんごとなきあどけなさだ。

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