とかして。
第1章 光が世界を染め変える
「貴女は、何故こんなところへ……」
「えーっと、その……へへっ、散歩?」
少女の目が、刹那泳いだ。宝石のように──…否、宝石と呼べる石にも優る炫耀を飾る睫毛の影を支えた頰に、僅かな桜色が差した。
「そうだ、お姉さん。あたし、月野うさぎっていいます。良かったらお茶でもしませんかぁ?」
白く柔らかな指先が、みちるの片手を捕まえた。
心臓が、また、小さく疼いた。この手の質感を知っている。
懐かしい。
そうだ、無理もない。そこでみちるは、三日前の返礼が鞄に入っていたことを思い出す。
家政婦に僅かな汚れも残らないよう洗わせたパステルピンクの半巾と、ウサギのプリントが入ったキャンディ。
みちるはうさぎに腕を引かれて、開けた公園へ場所を移した。
下校ラッシュの公園は、友人連れのグループやらカップルやらが、放課後の歓談を賞翫している。
みちるが包みを差し出すと、うさぎは大袈裟なまでに喜んだ。そして、お礼のお礼だと言って、公園に出ている屋台でクレープを買ってみちるに差し出した。
「はいっ。ここのクレープ、美味しいんです。今日出てて良かったー」
「悪いわ、……」
「良いんです良いんですっ。みちるさんに食べてもらいたいだけですから」
うさぎは苺と練乳のクレープを、みちるはオレンジとチーズクリームのクレープを、二人、ベンチに肩を並べて囓り出した。
柔らかな生地を味わいながら、みちるはおりふしうさぎの横顔を瞥見した。
清楚な顔立ち、それでいて目立たない顔かたちではない。どこまでも華があって、可憐で、何より柔らかすぎるその精神に相応しい、あまりに美しいものがこの少女を形成していた。
スライス苺を頬張って、生クリームを口の中で転がすうさぎは、今この瞬間、世界中の幸福を独占していると言わんばかりの顔をしている。だが、おそらく彼女は、その分の幸福を振り撒いていた。