とかして。
第1章 光が世界を染め変える
* * *
「っ…………」
ネプチューンの力を封じた途端、腕の引き裂かれるような痛みが走った。
三日前のダイモーンに引き続き、またぞろデス・バスターズの邪力はこの十番の街を狙った。
はるかは試合の打ち合わせだ。元々、彼女と行動を共にする以前は一人で戦っていたみちるは、今日の調査を引き受けた。案の定、はるかは難色を示した。
(お願い。一人でも出来ることのために、貴女の日常まで犠牲にしたくないから)
(……分かった)
それからはるかはみちるを茶化した。
…──昨日の仔猫ちゃんに、抜けがけて会いに行きたいの?
心臓が飛び上がる思いがした。しめやかな微笑みを繕って、妬いてるの、と、戯言を返すのにやっとだった。
学生鞄から半巾を抜き取った。
痛みには免疫があるが、血の染みた袖は大通りへ出ればさぞ目立とう。傷自体は深くない。
みちるが半巾を巻きつけた、その時だ。
「この前の人!」
「っ…………」
天上のハープの音を甘ったるくしたごとくの声が、みちるを戦慄させた。
「…………」
斜め後方にいたのは廃工場でまみえた少女だ。腰より長いツインテールの結び目には、今日も左右同じ大きさの団子。その格好は、やはり十番中学校の制服姿だ。
ブルーサファイアの双眸は、若干の驚愕を仄めかせながらも、無防備な光を揺らしていた。
「大丈夫ですかっ?!また怪我……」
「あ、平気。この辺り慣れなくて、ちょっとぶつかってしまったの」
「あははっ、美人なのにおっちょこちょいー」
「…………」
苦しい嘘であることは、百も承知だ。だのに少女の笑い声は、みちるを気遣って芝居をしているわけでもない調子である。
もとより、少女はそれほど器用ではない。
名前も知らない少女の身性を、何故か、みちるの直感は確信していた。