とかして。
第1章 光が世界を染め変える
遠い昔も、こんなことがあったのではなかったか。
みちるの仕えていた女性の一人娘は、青い星に憧れていた。時々、周囲の目を盗んでは、地球(ここ)に降り立っていた。
プリンセス・セレニティは緑豊かな場所が好きだった。そして、甘いものも。
「…………」
違う。途中からはみちるの記憶が捏造した夢だ。
「…………」
こんなひとときの中に閉じ込められたなら、みちるの思いも変わっていたか。
ありふれた少女を気取って胸の満ちる想いに顫え、道草をして、非生産的なひとときを楽しむ。
破滅のビジョンを端から嫌悪しているわけではない。
天使が予言し、天使が見せつける光景は、怖ろしい世界の結末でありながら、みちるを月の王国に羈束する。
あのビジョンを絵画に描き写した時は、賛否両論があった。はるかに言わせてみれば、虫も殺せなさそうな令嬢の意外な一面らしかった。
みちるは、あの絵を誇りにしている。夢の中でしかまみえられなかった天使を、独善的な行為にせよ、日常の中に連れ込めた。
穏やかな眺めが打ち砕かれたのは、突然のことだ。
「おらおら金出せっつってんだろぉ?!!」
「っ…………」
公園奥、植え込みの向こうから、荒ぶれた男の声が響き渡った。
周囲にいた学生らが、ぞろぞろと公園を去ってゆく。
「あっ、うさぎ──…」
みちるの制止を振りきって、うさぎが足早に駆け出した。