とかして。
第1章 光が世界を染め変える
「あの」
「何か」
「大丈夫ですか?」
「え、……」
「あ、ちょっと待って下さい」
青い瞳がみちるを離れた。少女の手が、忙しなく学生鞄を探り出す。
「ちょっと、貴女……っ」
少女は、みちるの足許に膝を屈めた。
みちるの左足首に、冷たい何かが押しつけられる。ひりりとしみた感覚が、みちるの眉を無意識にしかめさせた。
「痛いの痛いの飛んでいけー」
「えっ?……あ、……」
「はいっ、出来ました」
「…………」
少女の手が、左足首を離れていった。
巻かれていたのは、少女の頰の色を深めたくらいの半巾だ。
「血、出ていたから。痛くありませんか?」
「ええ。……、有り難う」
「ここ、変な感じがして心配になって来てみたんです。来て良かったぁ。あっち、何かあったんですか?」
「君は、……」
「いいえ。何もなかったわ」
患部が、今更になって疼き出す。
左足首から片脚へ、片脚から下半身、下半身から総身へ──…心地の悪い顫動が、不可解な戦慄になってみちるを蝕む。
少女の金髪は見事だ。白い肌はさしずめ月明かりを吸った天使の肉叢、青い双眸は高貴なブルートパーズの透明感を湛え、人間どころか天気の機嫌も疑ったことのない具合の天衣無縫な色をしている。
何故、そんな風に屈託なく微笑めるのだ。名前も知らない人間の足を、自ら跪いて手当てするのだ。
たとしえない存在感が、甘いそよ風にとけ入って、みちるにまとわっていた。