とかして。
第1章 光が世界を染め変える
汚れてゆく。汚れていた。
戦士の魂に憑かれて生まれ落ちた子供が、世界の色を初めから正しく捉えられるのは、無垢でいられる時期が存在しないからだ。
欲望がみちるを突き動かす。
救いたい。天使に忠実であり続けたい。
大人達を突き動かすものと大差ない。
こうした人間の蔓延る世界は、高潔な魂を生贄にしてまで、守る理由があるのだろうか。
ふと、時折、天使に背くような思いが掠める。
「…………」
「みちる」
媚薬にも似た音色に絡め捕られるようにして、首を動かす。
「ん……」
雑念をとろかすほどの唇が、みちるの吐息を封じにかかった。
柔らかなキス。甘いか無味かも甄別出来る余裕を奪う、はるかのキスは、みちるから正常な思考を除く。
「ぁ……はぁ……っん」
情けなく音をこぼしながら、唇をなぞる舌先を迎え入れる。
はるかが隣に腰を下ろした。みちるはソファにうずもれたまま、鍛えられたウエストにしがみつく。
口内を満たす親友の味を虚ろに貪り、唾液にまみれて舌と舌が抱き合うのに扇動されて、はるかの腕や背中をさする。
「んっ……んん」
「みちる、……」
劣情的な水音が、二人をさらう。
私宅の使用人らが今のみちるの姿を見たなら、血相を変えてはるかに殴りかかるだろう。みちるも、不良娘のレッテルを貼られ、一ヶ月は禁足される。
世間の中学三年生と言えば、今頃は、学習塾で進路の心配をしているものだ。みちるもはるかも、推薦枠を狙える学力には恵まれていた。受験の必要はなかったが、淫らな現実逃避に溺れて咎められない理由はない。
それでも、唇と唇とが惹かれ合う。腕と腕とを絡めてしまう。