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第20章 奪われたキス

ふと気が付くと真啓が俺のことをじっと見つめていた。

「真啓…くんだっけ?俺に何か聞きたいことがあるの?」

俺の声に華がこちらを向いた。

「あっ…いえ…。どんなときに作詞や曲が思い浮かぶのかなぁと思って。」

真啓は柔和な笑顔を見せて言ったが、とってつけたような質問だった。

…観察されてるのか?俺。

「うーん…リラックスしてるときかなぁ。突然パッと意識の中に現れるんだよ。」

「気分によって歌いたく無い曲とかありませんか?例えば、失恋している時に、華やかで甘い恋の歌とか…。」

メンバーを見渡しながら真啓は聞いた。

「ある…あるよ。やっぱ同じミュージシャンとして君はよく判ってるね。」

キーボードのリョウが溜息をついた。

…リュウのやつ…また女に振られたのか?

俺は思わず笑いを堪えた。えてしてリュウはモテることを鼻に掛け、恋愛サイクルが短く展開も早い。

「そんな時はどうするんですか?」

リュウは笑って寂しそうに言った。

「弾くしか無いよなぁ。俺たちそれで金貰ってるんだもん。」

「えーっ。リュウさんでも振られることがあるんですね。」

リツが驚いた顔をした。

「うん。しょっちゅうだよ。」

「女の子の扱い方を知らないんだよ。だから付き合ってもすぐに女の子に振らちゃうんだ。」

ドラムのトオルが涼しい顔で会話に混ざった。

「そうそう…付き合い始めた女の子こそ、マメに連絡とったり、アフターフォローやメンテナンスがこいつは悪いんだよ。」

ベースのトモキが拳骨でトオルの頭をぐりぐりと抑えつけた。

「男子諸君はこうならないように頑張り給え。」

トオルが真面目な顔で言ったのでみなが笑った。

…久しぶりの楽しい食事。メンバーが自然体になれるのも、春さんが温かい人だからだ。

春さんはお手伝いさんと一緒に身体を動かしながらも会話を聞いて笑っている。

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