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第23章 幻想ポロネーズ

次々と呼ばれステージへと演者が向かう。そして僕の出番がやってきた。大きな深呼吸をしてステージへと向かう。沢山のライトに照らされたコンサートシリーズのベーゼンドルファーが、威厳を湛えて僕を待ち構えていた。

枕と毛布を引きずりながら、僕の後をついてきて、にこにこと嬉しそうにピアノの下に転がり込む小さな華の姿を想像した。多分僕は微笑んでいたように思う。

…大丈夫。僕は弾ける。華ちゃん…君の為に僕は弾くよ。

長方形のふかふかの椅子に腰かけ、袖の攣れを直し、象牙色の鍵盤の上にそっと手をかざした。
転調に次ぐ転調…そしてポロネーズなのに主調が曖昧なまま進行していく。

「音がバラバラなのに、流れとしては纏まっているのは何でだろうね?お昼寝には向かない優雅な曲だし、こんなんじゃ踊れないわよね。」

華はいつもこの曲をそんな風に表現していた。自分ではきっと気が付いていないんだろうけれど、華は感覚的に音楽を捉える力がある。時に、その言葉は僕にハッと息を飲むような新しい気付きをくれたりする。

「自転車で砂利道、舗装された道、芝生の上をスピードを出して走る…みたいな感じ?それでいて躓きもしないのよね。運転してる人の技術も必要だろうけど、きっと乗ってる自転車がママチャリだったらこう上手くはいかないわよね。」

華は至って真面目な顔をして、ちょっとずれたことを言ったので、我慢出来ずに思わず笑ってしまった。

「今日こそ真啓のピアノを最後まできちんと聞くわっ!」

いつも意気込む華だったけれど、数分後にはいつも寝ていた。

…枕や毛布を持ってこなければ良いと思うんだけどな。

何度思い出してもやっぱりおかしくて笑ってしまう。

――― ワーッ。

そして気がつけば、僕は大きな拍手の波の中に佇んでいた。

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