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第5章 涙雨

――― 昼休み。

音楽室へ行くと、真啓が練習をしていた。ピアニストか真啓のお父さんのように医者になりたいといつも言っていた。

「ふし…み…じゃなかった…まひろくん。また1番が聞きたい♪」

あたしは、真啓の弾く、ショパンのエチュード第一番ハ長調が大好きだ。右手の流れる動きと、繰り返されるアルペジオ。大きな真啓の手が繊細に優しく鍵盤の上で滑るように動く。
大抵、真啓がピアノを弾きはじめると、音楽室の前に人が集まる。生徒も見に来るが音楽の先生も時々顔を覗かせる。

「華ちゃんは、そればっかりだね。」

真啓はいつも笑うけど、10度も取れちゃう大きな手の人はなかなか居ない。あたしと真啓は、同じピアノの教授のもとに通っていた。ピアノの下に潜り込んで、出てこないあたしを困った先生が色んな曲を弾いた。お腹に響く音が面白くて、結局練習しないで、潜り込んでばかりいた。真啓は偶然あたしの次にレッスンが入っていたことがあって、グランドピアノの下に隠れて音を聞いているあたしに声を掛けたのが始まりだった。

(そこ…煩く無い?)

同じ年の真啓くんだよと先生が紹介してくれた。

(ううん。お腹に響いて気持ちが良いの。)

…とあたしは言ったらしいが、幼稚園の頃だったので、全く覚えていない。

パパはとても残念がったが、あたしはその後ピアノを辞めてしまった。それから、長い間真啓の事を忘れていたけれど、偶然高校が一緒だった。今でもチャンスがあったら潜り込んで聞きたいぐらい。

「じゃぁ…別れの曲。それか…なんだっけなぁ。」

あたしが鼻歌を歌うとすぐにその曲名を教えてくれる。

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