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密猟界

第8章 狩りの時刻

 ユノの胸の傷の手当てを終え、「背中は」云いかけると床下がうねるような振動に「頭…痛い」目眩を起こしたらしい。
 「チャンミン」「あ─平気です」額を押さえ、「ユノ。僕…」床全体が軋んだ。「どうした?」「最近ところどころ記憶が…、ないみたいで」「そうなのか」「途切れて…思い出せなくて─」「チャンミン」「僕いったい…?」「少し、寝るといい。疲れたんだろう」
 遠くから、地響きが伝わってくる。
 


 額縁がたくさん壁に掛かっている部屋。明かりは燭台に、数本の蝋燭が揺らめいているだけだった。
 家具の上に、人形がのっている。白っぽい衣装の、雪の精のような人形。
 …(ユノ)ちいさい唇と深く澄んだまなざしが、愛らしい。
 そっと抱き上げると、両腕に心地いい重みで、しっくりとおさまる。
 羽根のようなケープを脱がせると、黄金の巻き毛が零れおちた。指に引っかかるリボンを取ると、小さなポシェットの紐だった。
 ポシェットのなかにカードがあり、銀の英文字で『ナターシャ』と綴られていた。
 抱き人形をやさしく胸に引き寄せると、温もりがある。

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