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密猟界

第8章 狩りの時刻

(あったかい…)指先に絡んでくる巻き毛を、撫でた。やわらかな感触を楽しむように、何度も触れた。次第に口元が微笑みのかたちに変わる。
 金の髪に唇をつける…抱きしめ、頬を擦り合わせ…温かい、柔らかな─抱き人形のあどけない貌を見つめた。ロマンティックな夢のような頬のいろは、咲きかけのバラの色。
 (ユノ)あらためて、人形の小造りな貌を見る。(チャンミン)呼びかけが、はっきりと聴こえた。
 人形の胸に耳を当てる…鼓動が、感じられる。(生きてる─? まさか…)膝に座らせた人形と、向かい合った。
 人形の黒い瞳、ほの紅い頬、唇、そして黄昏の金いろの巻き毛。小さい貌に手を伸ばそうとすると、ブラックホールに吸い込まれたような、暗黒に自分と人形が浮いていた。
 フワフワと人形の金の髪が、春風にそよぐ動きをする。
 湖の底を泳ぐ仕草で、近づいて来る…黄金の巻き毛を靡かせながら─気がつくと仰向けの自分の上に、抱き人形がのし掛かっていた。
 …甘く匂う空気が周囲を取り巻いて、捉えどころのない宙にいる。 
 ふと、不安になり…、(ユノ─)辺りを見まわすが、暗黒に漂っているだけで、無音の空間だった。

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