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密猟界

第8章 狩りの時刻

 ─空中で受けとめる。『ナターシャ』の英文字が血のいろに、変わっている。カードを裏返すと、黒のバタフライ。─羽ばたきをする…(あ─?)バタフライは黒翅を閃かせ、宙に舞い上がる。
そのまま、虚空を翔び、鳥籠の部屋をヒラヒラとさまよい…やがて壁の額縁を乗り越え、闇に溶ける…(ユノ)自身も額縁の向こうへ、跳ぶ。
 ──目を開くと、薄くなった闇のなかに埃だらけのレースのカーテンが、下がっていた。蜘蛛の巣が、フリルに引っ掛かり、灰色の生地に、ピンクの薔薇模様も、すっかり色褪せている。
 指先を軽く触れただけで、微かに埃が舞う。カーテンを開けると、真っ黒な空間に、抱き人形がこちらに背中を向けて、立っていた。
 後ろから、手を伸ばして、持ち上げようとすると、くるりと人形はこちらを向いた。その姿勢のまま、すうっと浮かび、上へ上へとあがってゆく。
 跳びあがって、シルクのドレスの端を、ようやく掴んだ。
手繰り寄せた抱き人形。 黒いバタフライが飛んできて、肩に留まった。(離せ、…見るな)(ユノ)(魂─、吸い取る。こいつ)人形の瞳は無心に開かれている。

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