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密猟界

第8章 狩りの時刻

白痴のようにチャンミンは、唇を開けたままになった。笑っても冷たいユノの瞳。ロシア貴族の王女を思わす抱き人形の、グラス・アイの冷ややかさだった。
 立ち上がり、隣のベッドにユノは掛けた。「悪いのはお前だから仕方ない」…「リュック姿で危ない場所に─旅先の外国」…「何も信じてないお前、教会に逃げ込んでどうなる?」…「自分ひとりの身も守れない。俺から離れるからだ」「ユノ」眉が寄せられ、「泣くのか─甘ったれた奴だ」不機嫌な声で、云い放った。
 「ユノ…」「勝手にしろ。俺はソウルに帰る」ベッドの下のリュックを背負い、部屋を出る。「ユノ! それ僕のリュックだ」廊下には誰もいない。
 ふと窓の外を見ると、庭で結婚式が挙げられている。参列者は皆、金髪で白い服を着て笑い合っていた。
 その楽しげな群集のはるか向こう、自分のリュックが持ち主を探すように、浮かびながら遠ざかっていくのが見える。
 ユノの姿は何処にもない。
 (…ユノ…!?)「チャンミン」「…あ」「起きろよ? 寝言で叫んでないで─さ」コーヒーの香りが、目を覚まさせた。

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