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密猟界

第8章 狩りの時刻

耳元でびゅうびゅう、風が鳴り続けている。……息を弾ませ、…口から白い息、まわりは夜の森。 風のひゅうひゅう哭く音だけ─(ユノ)「ユノー」喉の奥が、乾ききった風で、ひりひりする。 「ユノ! どこー」体の汗が冷えて、寒気がした。「いたら…返事して! ユノ─」気がつくと、空き地に立っていた。
 歩み寄る…碧の布地が、殆ど黒ずんで空き地の真ん中にある。
 栗色の髪の毛は、闇に溶けたように、見えない。
 恐る恐る、手を伸ばす─途端に後ろから、突飛ばされた。突風が、吹きつけてきたようだった。風も風の音も、止んでいる。
 「さわるな」はっきりきこえた。(あ…)「うせろ」栗色のセミロングが、横顔を隠し─「あっちいけ」気圧され、後ずさり─「きえろ」もつれる足で、逃げるように、再び走り出した。
 荒い息、息を切らし、指先が冷えて、(あの声)足も思うように、動かない…(あれ…、は、ユノ)痺れたような両足をひきながら、(ユノだ。あの声)黒い幹にしがみつく。
 風が口笛を吹くぴゅうという音を、たてた。
 ずるずると座り込み、(ユノ…? 確かめよう。もう一度)汗をぬぐい、ゆっくり立ち上がろうとして、背中にぶつかるもの…。

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