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密猟界

第9章 死海のほとり

 ………………………… ……猛烈な頭痛で目が覚め、身震いをした。氷の冷たさの石の床から、凍えた身体を引き剥がすように、起こす。
 がんがんする頭を巡らすと、倒れている人間の頭が、目にぼんやり映った。乱れた金髪の頭だった。
 横たわった身体は、黒っぽい服を着ていて、床の汚れが、あちこちについている。
 こめかみを押さえながら、のろのろ、床を這う。……身をのりだし、顔を覗く。「かめんをつけてるとしあわせになれない」(えっ?)「─ぷぶ、夫婦クリニック」(うん?)「あいと、せんそ」(愛? せんそう…)寝言は止み、大きないびきに変わった。
 「─チャンミン」ようやく絞り出した声は、枯れていた。「起きろ」肩を揺すり、「風邪ひく」…ケリが飛んできた。
 ため息をついて、髪をかきあげる。(あの二人…)目をこすると、欠伸まじりに涙がこぼれた。(濡れ鼠で泥まみれだったけど。この教会の前で)ふっと、夢の続きが目蓋に浮かんだ。(あの二人─綺麗な顔で…。完璧)口元が自然に綻ぶ…(また、会えるかな)「う、の」寝言の呻きに、夢想が破られた。

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