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密猟界

第4章 闇の中の謝肉祭(カーニバル)

 「ユノはこだわり過ぎるんですよ」小さなダイニング。壁は板チョコそっくりのレンガ。「たかがワンピース一着ですよ」「うん…」スプーンを丸い深めな皿に入れて、ユノは頷き、口にスプーンを運ぶ。
「ユノはロマンチスト。男らしさ女らしさも考え過ぎる…」「まあね─」スプーンで皿の中をひと掻きする。「美味しくない?」チャンミンが上目遣いで云う。「お前が作ったものは何でも旨いよ」慌てた口調にユノはなった。
 「このシチューは僕が作ったものじゃありませんよ」赤いワインをチャンミンは飲み干した。
「─え?」「そこの…」カウンターの向こうを指差し、「冷蔵庫に…シチュー鍋入ってて、中身見たら美味しそうで─温めたんです」「そう…か、俺も…こういうの好きだな」ユノはスプーンを皿から掬い上げ、口に入れて頬ばる。
「ワインも…良い味だな」「クッキング・ワインですよ…」自分のグラスをチャンミンは紅色で満たし、唇に運んだ。ユノはワイン瓶に手をやって、「黒い…蝙蝠? Vで始まる─」ワイン・ラベルを読もうとする。「─ただのクッキング・ワインですよ」蝙蝠にも見える柄を、チャンミンが親指で擦った。

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