夜空は百合の花を狂気的に愛す
第2章 オトギリソウ
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ユリが去った後、陽向も続いてその場から去ろうとしたが愉快そうな夜の声に立ち止まる。
「アハハ、残念だったね、陽向クン。」
「…どういう意味?」
アーモンド型の目を三日月にして笑うこの男に人生で初めて陽向は嫌悪感を抱いていた。
教室でクラスメイトと話している時とは違う、人を蔑むような馬鹿にするような笑みを彼は陽向に向ける。
「強がっちゃって笑えるね。ユリはアンタのことなんてこれっぽっちも好きじゃないんだってさ。…アンタとは違って。」
「…うるせーよ」
そんなこと陽向はとっくの昔から知っていた。
ユリと出会って成長するにつれて、自分のユリに対する気持ちはどんどんでかくなっていった。しかし、ユリが自分に向ける感情は自分の感情と違うことに気付いていた。
だからこそ彼は今までユリに告白はしなかった。
変に振られて曖昧な関係でいるより、今の幼馴染兼腐れ縁の関係でいる方がずっと良かったからだ。
しかし、そうと分かってはいてもああも綺麗に否定されると心にくるものがある。
そんな状況を作り出し、あげくに楽しそうに笑うこの双子を陽向は睨みつける。
「一体何のつもりだよ」
「んー…何だろうね?とりあえず忠告みたいなものかな」
「忠告?」
「…ユリに近付くな、ってこと」
空が感情のない声で陽向に告げた。
それどう意味だと問おうとしたところで教師に呼ばれ、陽向は聞けずじまいでこの場を去ることになった。
胸に一抹の疑問を残したまま。