夜空は百合の花を狂気的に愛す
第2章 オトギリソウ
「おかしい」
ユリが無意識に呟いた言葉はこの場にいる誰もが思っていたことだった。
18 : 40
圧倒的に負けているのは陽向のチームだった。
確かに相手のチームも強い。しかし、陽向達のチーム程ではない。
なのにこんなにも差が開いている。その決定的な理由は誰が見ても陽向のミスだった。
陽向はファールをもう4回も食らっている。またいつもの陽向だったら絶対にとれるパスやゴールもミスってばかりだ。
「ちょっとぉ…アイツなにやってんのよ。こんな初歩的なミスする奴じゃないでしょーが…」
「ええ…それに…」
イライラしている愛子とは違い、ユリはじっと冷静に陽向を見つめる。
ミスも多い。けれどそれ以上にまだ前半戦だというのにあの疲れ具合がユリは疑問だった。
荒い息にふらつく身体。そしてたまに何かを堪えるような歯を食いしばる顔をする。
(悔しくて…?いいえ、違う。あの顔は何か痛みを我慢してる顔だわ)
長い間、陽向を見てきたユリにはわかった。
食い入るように心の中で頑張って!とエールを送るユリとは正反対に双子はどっかり椅子に座って足を組み、見下すように陽向を見ていた。
(頑張っちゃって泣けるね。きっと彼の今の視界はぼやぼやで何も見えないだろうに。)
(…足も相当痛いだろうしね)
口の端を吊り上げる双子は悦に浸っていた。