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夜空は百合の花を狂気的に愛す

第3章 ムラサキツユクサ


「…ごめん、なさい」

「え?」

いきなり空くんが謝ってきた。

なんだか空くんが不安定だ。

「はぐれちゃって、心配かけた」

「あ、ああ、もう!本当に心配したんだから!スマホも見ないで何してたの?」

「…あれ、見てた」

そう言って空くんが指さすのはたくさんのお魚がいる大きなガラスケースだった。

「あそこに1匹だけ違う色の魚がいるでしょ」

「本当だ…」

確かに同じ形をした魚の中に1匹だけ珍しい色をした魚がいる。

ガラスケースの横の説明ボードを見てみれば、遺伝子の突然変異でできた魚のようだった。

「…あれは俺達なんだ」

「え?」

俺達、とは夜くんのことも言っているんだろう

あの違う色をした魚が2人だって言うの?それはどういう意味…

「昔はね、違ったんだ。俺も夜も。でもあの日から俺達の色が変わった。自分の気持ちが怖かったけど本当の自分が知れて嬉しかったんだ」

「本当の、自分…?」

「…ユリは優しいよね。でも本当の俺達を知ったらきっと嫌いになる」

じっと魚を見つめていた空くんが私を見る。

その瞳は不安げに揺れていた。

何故か胸が痛くなって空くんに抱きついた。

「ユリ?」

「…ならないわ。私、正直言ってまだ貴方たちのこと何もわかってないし、知らない。けどね、絶対に貴方たちのことを嫌いにならないって約束する」

今はまだこんな約束しかできないけれど…

空くんの声が震えていた。

「ありが、とう…俺達から離れないで」

「ええ、離れないわ。それも約束する」

「本当に?絶対に?」

「絶対よ」

「…うん。俺も永遠にユリのことを離さないよ」

お互いぎゅっと抱きしめ合う。

彼等は複雑な家庭環境で育ったんだ。どこか心が不安定なのかもしれない。

そんな彼等を支えてあげたい。そう思った。

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