夜空は百合の花を狂気的に愛す
第4章 ハボタン
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その頃、とある空き教室では双子の片割れと女がいた。
「ごめんね、いきなり呼び出しちゃって。」
「ううん!全然!大丈夫!でもどうしたの?」
「実は…愛子さんに聞いて欲しいことがあるんだ」
伏し目がちに話すその男は夜だった。夜の目の前にいるのはユリの親友の愛子だ。
ユリを見送ってからすぐに夜に話しかけられ、愛子は内心ドキドキしながら夜についていったのだ。
(何!?もしかしてあたしに告白!?双子くんはどっちも格好いいけどどちらかと言えばあたし夜くんの方が好みだったからドキドキしちゃう〜!)
愛子は期待を胸に抱きながら夜に聞く。
「聞いて欲しいこと、って…?」
「俺…ユリさんのことが好きなんだ」
「えっ…?」
愛子の思考が停止する。
(え?今なんて言った?ユリのことが好き?どういう意味?は?)
「す、好きって…ユリは、姉じゃない」
愛子の声は震えていた。
「そうだよ…だから、苦しいんだ…俺。好きな人がいつも近くにいるのに姉だから何もできない。苦しくて、苦しくて…頭がおかしくなる」
「夜くん…」
夜の目が悲しみで揺れていた。
「でも…その話をなんであたしに?」
愛子の言うことは当たり前の疑問だった。何故わざわざ自分に告げたのか、夜の意図が愛子は読めなかった。
「本当、だよね。でも俺誰かに話したくて…1番に思いついたのが愛子さんだったんだ。愛子さんなら俺のことわかってくれるって思って…」
「あたしが、1番に…?」
愛子は胸が高鳴るのを感じた。
愛子は1番という言葉に弱かった。いつでもどこでも誰かの1番はユリだったからだ。優しくて美しいユリ。彼女が1番なのは愛子も納得していた。
だからこそ自分が1番になる日なんて来るはずないと思ってた。
なのにこの目の前の美しい少年に自分は1番だと言われたのだ。
途端に夜のことがさらに格好よく見えて愛子は彼から目が離せなくなっていた。