僕は君を連れてゆく
第12章 デリバリー攻略book
朝、出社したらフロアはざわざわしていた。
俺を見てみんながひそひそ何か話している。
デスクに向かって歩くとみんなが道を開けていく。
そして、フロアの掲示板に人だかりができていた。
「なんだ?」
一枚の紙が貼られていて、異動の告示だった。
【二宮和也を6/17付でお客様相談係へ異動を命ずる】
こんな、変な時期の異動だ。
そりゃぁ、ざわつくよな。
6/17か…
朝礼の時間になってそれぞれデスクの前に立つ。
室長がいつもの朝礼と同じことを言う。
そして、
「あっ。二宮は異動になる。」
最後にそれだけ言った。
別に、労ってほしいわけじゃないけど…
こんなもんなんだ。
俺って。
入社して約5年。
俺なりに学んで、先輩から、得意先から信頼をもらえるように努力してきたんだ。
それで、たまたま、出会ったのがあなただった。
あなたの会社はうちの会社の超がつくほどのお得意先で
その会社の後押しがあって、成り立っていると言っても過言ではない。
そこの社長さんとの会食であなたに出会った。
あなたは社長さんの息子で、俺の初めての男だ。
あなたと出会うまで俺は自分を否定しながら生きてきた。
こんな、性癖を持った可哀想な俺。
誰とも仲良くならないように生きてきたのに。
その会食でトイレに席を外して、用を足して、
席に戻る途中にあなたがいた。
あなたは
「二人で飲み直さないか?」
そう言ってホテルのbarに連れてきてくれた。
かなりのお得意先なのは知っていたし、上司からも
機嫌を損なわないように念を押されたから、あくまで、仕事としてついてきたんだ。
慣れないbarという空間。
あなたが吸うタバコの香りにさらに酔いが回って、
自ら性癖を暴露した。
「じゃあ、俺が抱いてあげようか?」
そう言ってキスをされた。
初めてのキスはタバコの香りがした。
口内を犯すあなたの舌使いに雄を感じて、
初めてと言っていいくらいに欲情した。
今の今まで、押さえつけてきたものがあふれて、
体の奥底から沸き上がってくる熱に自分の体じゃないようで恥ずかしかった。