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僕は君を連れてゆく

第2章 クレーム対応術


「………」

俺が書いた報告書を難しい顔で読んでいる。

こんなにハッキリと近くで顔を見るのは初めてだけど女性社員が騒ぐだけあって綺麗な顔をしている。

「松本…だったな?」

俺の顔を見ずに話しかけてくる。

同年代らしいが、役職がつくとこんなに風格?がつくというのか、佇まいが大人に見える。

「聞いてるか?」

「はいっ!そうですね!」

「なにがだよ?」

上目使いで俺を見てニヤリと笑ったその顔も初めてみる顔でその赤い唇から放たれる言葉は俺の耳の右から左へと流れていった。

「聞いてないだろ?オイ!」

「はいっ!そうですね!」

「さっきからそればっかりだな…疲れてんのか?」

椅子から立ち上がり書類を置きデスクを回って俺の隣へきた。

肩に腕を回し顔を寄せ、耳元で何かしゃべっている‼

俺の右半身が固まる感覚。

初デートで彼女の手を握りたいのに握れないとき。

自宅へ誘うつもりで遠回りして帰ってるのに、つい口から終電という言葉を発してしまったとき。

そう、そんなときの感覚に似てる。

「えっ???なんて???」

「急にため口?まぁいいや。今夜、どう?」

俺は誘われた。

今夜、この男(ヒト)とホテルに。

この男は…3ヶ月前から俺の部署の部長になった人で俺より2つ年上で出世コースにのった人物。

入社の時から話題になっていて、営業部でも営業記録を塗り替えたり、広報部では新しい媒体への自社のアピールを積極的に行い新規開拓へと導いていったらしい。

しかし、開発部に行けばヒット商品連発‼‼
とはならなかった。
そして、なぜ自分たちが開発した商品がヒットしないのか、今の時代に求められる商品はなんなのか、それを知りたい‼

それには、お客様の声を聞かないといけない!という暑苦しい熱量でこの部署へやってきたのだ。

そんな男…櫻井翔。

俺はこの3ヶ月、彼の前ではどうもおかしいのだ。

自分が自分じゃないみたいで…

何かの病気なのでは?と診てもらった位で。

このどうもおかしい理由。

今夜…わかるだろうか…

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