
僕は君を連れてゆく
第15章 会いたい
黒いスーツを着る。
黒いネクタイをつけた。
泣いて起きたせいで頭が、瞼が重い。
ホテルには姿見があって、人生で初めて着た礼服。
まさか、今日だなんて。
時間を確認して革靴を履いた。
時間にはまだ余裕がある。
大野さんのアパートへ寄ろう。
電話が鳴った。
まさきからだ。
「もしもし?」
『にの?大丈夫?』
「…うん、大丈夫だよ。」
『おーちゃん、元気だった?』
「変わらないね。あの人。高校時代に戻ったみたいだったよ。」
そう言って俺は笑った。
俺は。
まさきは笑ってはいなかった。
『戻りたい?』
『松潤がいた、あの頃に戻りたい?』
「………」
『ごめん。意地悪な聞き方して…』
「ううん。」
『にの。好きだよ。』
「ありがとう。まさき。」
戻りたくなんてない。
高校時代になんて。
戻れるのなら、先生と同じ時代を生きたかった。
先生が見てきたものを俺も見たかった。
先生が聞いてきた声を俺も聞きたかった。
「せんせい…」
ホテルを出たら太陽の光はギラギラとアスファルトに降り注いでいる。
空を見上げる。
今日も暑くなりそうだ。
