
僕は君を連れてゆく
第15章 会いたい
お葬式はあっという間に終わってしまった。
そして、火葬場へ移動するという。
俺はそれを断った。
白い煙になる先生を見たくなかった。
「行かなくていいの?」
大野さんが問いかける。
「うん。」
先生の最期を見届けてやれない俺。
ごめんなさい。先生。
大野さんから離れて葬儀場から出ようとしたら、
さっきの女性から声をかけられた。
「行かないんですか?」
「え、あの…」
「来てもらいたいです。二宮さんに。」
さっきの柔らかい印象とは違い、行くという選択しか聞かない、という意思を持った目で俺を見ていた。
「あの…どちら様ですか?」
口ごもる俺の変わりに大野さんが女性に聞く。
女性は俺をしっかりと見て、
「松本ゆうこです。松本は私の夫です。」
「にのも変わったよ。」
俺は知らなかった。
先生に奥さんがいること。
俺には離婚すると言っていた。
再婚したのかと思ったら、そうではなくて。
そこもきちんと、ゆうこさんは教えてくれた。
あの部屋で過ごした日々。
あのときは俺は何も気がつかなかった。
いいや。
舞い上がっていて見えてなかったのかもしれない。
センスのいいカーテンや二組あったマグカップ。
窓辺にあった鉢植えにキッチンにかかっていたエプロン。
今でも鮮明に覚えている先生の部屋。
それは、ゆうこさんと先生の部屋だったということなんだ。
あの部屋の中の先生は俺だけしか知らない先生だと思っていた。
