テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第18章 涙雨


金曜日だけど、この雨のせいでちっともお客さんは入ってこなかった。

昼間、冷やしたビールもそのまま。

「雨は嫌んなるなぁ…」

「早めに閉めちゃいますか?」

外の様子を見ようと戸を開けたら、君がいた。

眉を下げて。

「…っらっしゃい…」

昼間見た光景が頭に浮かんで言葉がすぐに出てこなかった。

「ラーメン、食べに来た。」

傘を傘立てに入れて店内に招き入れた。

「あぁ、いらっしゃい!寒かったろ?」

あれから、かずは週に一度は店に顔を出していて、週に一度は出前を取ってくれているから、親父さんもお袋さんもかずとはすっかり、仲良しになった。

「あれ?ずいぶん空いてる…」

お袋さんがかずにタオルを渡した。
小さくお辞儀をして、小さい声でありがとうございます。と言って肩や鞄を拭いた。

「雨だとな…こんなだよ…」
親父さんがかずに愚痴を漏らす。
かずはそれを頷きながら、相づちを打ちながら聞いて、時にはツッコミを入れて…

いつもの、かずだ。

でも、雨に濡れた肩は下がっているように見える。

聞きたいけど、聞けない。
聞いていいのかわからない。

聞いたら、離れてしまうような気がして。

「なに?ずいぶん、静かじゃん?」

ラーメンを啜りながら、クスっと笑ってる。

「こいつは、今日はダメだ!使えねぇんだ。
なんか、ネジとれちゃってな!な?」

「いやいや、そんな…」
アハハと乾いた笑いしかでてこない。

かずは、大丈夫?って心配してくれる。

泣いていた君を見たから…
なんで、泣いていたの?
仕事も何も手に着かないくらいなんだ。

「あぁ~!やっぱり、うまい!」

「ビールは?まーくんが冷やしたのに今日は出番がないからね。」

「まーくん?」

「…」

「まーくんって呼ばれてんの?」
面白いおもちゃを見つけたみたいな目。

「まさきだもん。まーくんよね?」

「恥ずかしいって言ってるじゃないですか!」

「まーくん!まーくん?まーくん♡」
完全に遊ばれてる。
それでも、君が笑うなら、俺は笑い者でかまわない。

「うるせぇ!チャーシュー食べちゃル!」
かずが残していた残り一枚のチャーシューを横取りして口に入れた。

「あー!もぉ!ひどい!まーくん♡」


ストーリーメニュー

TOPTOPへ