僕は君を連れてゆく
第18章 涙雨
明日は休みだからと、もう一本、ビールを開けたかず。
親父さん、お袋さんもチャーシューや煮卵をだしてきて、「こんなに飲むなんてめずらしいね?」なんて言ってる。
「たまにはいいよね?」
と、少し赤ら顔。
時々、グラスの中のビールの泡を見つめて、
フゥーと小さく息を吐く。
「その辺にしといたら?」
「もう、一杯だけ?ね?いいでしょう?」
酔っているのか、甘えたように上目遣いで俺を見る。
「さぁ、雨もあがったし、今日はもうおしまい!」
お袋さんの声にかずは「えっー!」と唇を尖らせる。
顎のほくろ。
流れるような顎のライン。
目にかかりそうな前髪から覗く、柔らかい眼差し。
「まーくん、送っててあげなよ。今日はもうあがっていいから、ね?」
確かに、このままかずを一人で帰すなんて危なくて出来ない。
「じゃぁ、帰ろう?かず。」
「ん。」
かずも俺も鞄を持って、かずは上着を着てお店の戸を開けた。
「ごちそうさまでした!」
「お疲れさまでした!」
雨が上がって、ぬるい空気が一面を漂っている。
「ムシムシするなぁ~」
「飲みすぎたなぁ~!」
と、言いながらも足取りは思ったよりしっかりしている。
歩を進める度に、ビチャという足音がして、前を歩くかずの踵から雨水が跳ね上がる。
車の通りをほとんどなくて、俺たちだけ。
そんな気すらする。
「まーくんはさ、ゲイなの?」
「……?????」
「いや、突然、ごめん!ほら、晶子さんがさ、そうだって、言ってて…」
晶子さんはうちの店の常連さん。
晶子さんという、名前しか親父さん、お袋さんも知らないようで、年齢も教えてくれないし、どこに住んでるのか、何をしてるのか、誰も知らない。
でも、晶子さんが来る日は店はとても混んでみんなが晶子さんと話をしたがる、という不思議なおばさんだ。
(おばさん、と俺は思ってるけど、おばさん、と言ったらすごく、怒られたことがある。だから、晶子さんと呼んでいるんだ。)
「晶子さんが?そんな話したことあったかな…」
「で、どうなの?男もイケるの?」
晶子さんには、何でもお見通しってことなのか…
「そうだよ、って言ったらどうすんの?」
かずは足を止めた。