僕は君を連れてゆく
第28章 ハンプ
それから俺は一人だ。
高校へ行くのを諦めていたら、母さんは高校へ行けと言った。
そのために働いていたのだと。
母さんは家に帰ってこなくなった。
定期的に生活費を置いていった。
学費もきちんと払われていた。
母さんの顔を見たのはいつが最後だろう。
これからも俺は一人だと思ったから、それなりの高校を受験した。
一人で生きていくために。
俺には潤が言ってくれた言葉が支えだった。
潤と俺は違いすぎる。
あまりに優しすぎる両親やまっすぐな潤を見ていると目を開けていられないほど眩しく感じるから。
潤はあの言葉のように同じ高校に入学してくれた。
三年間、俺は潤を見てきた。
ずっと、隣で。
この三年間で卒業してからの人生を生きていけるように潤の姿を目に焼き付けてきた。
卒業式の日。
俺は潤にさようならを言えなかった。
もしかしたら、この瞬間が永遠に続くかもしれないなんて夢のようなことを考えてしまったから。
カラオケで潤が歌う。
それは、応援歌ばかりでラブソングなんて一つもなかった。
潤、ありがとう。
潤、さようなら。
潤、好きだ。
潤の歌を聴きながら心中で何度も唱えた。
届くはずないのに。
それでよかった。
電車の曇る窓にお前の名前を書いた。
その隣に俺の名前も書いた。
ー松本潤
松本和也ー
自分で書いて恥ずかしい。
さようなら。
ありがとう。
どうか、元気で。
どうか、幸せになって。
どうか。
俺の分も。
そして、俺は医者になった。
そして、この何もない町で潤と再会した。