テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第28章 ハンプ

◇M said

抱き締めたかずはあの時と変わらなかった。
俺より小さくて、華奢な体。

「かず…お前、医者になったんだな…」

「うん…」

「よく、言ってたもんな。おじいさんの話。」

「そんな昔の話、覚えてるの?」

驚いて俺を見上げる。
変わらない瞳。

「覚えてるよ。お前のことは全部。」

少し唇をむにゅむにゅ、動かした。

「忘れるわけないだろ。」

「忘れてよかったのに…」

「約束したろ、俺がお前を守るって。」

「それで、お巡りさん?」

「いや、そういうわけじゃないけど…」



かずが出ていったことに気がついたのは卒業式の次の日。

いつものように朝起きた。

大学の入学式まで、俺はバイトを入れていたから。

仕度をして家を出た。

階段を降りて、かずの家の前を通った。

台所の窓が少し開いてることに気がついた。

かずはあれからは神経質になるくらい鍵という鍵に閉めていたから、開いているのが不思議だった。

中を覗いたらかずはいなかった。

何もなかった。

俺は自宅に戻って両親に問いただした。

かずが出ていくことをなんで、許したのか、
なんで、俺に黙っていたのか、かずは今、どこにいるのか。

両親は何も知らなかった。

俺は、お前を守っていくと決めたんだ。

それは、これからも変わらない。

ずっと。

あちこち探したが居場所はわからなかった。

それから、10年過ぎた頃、かずの母親は死んだ。

一人で。

俺はずっと、かずを探していた。

どこに行っても、何をしてても。

すれ違うかもしれない。

この店で飯を食ってるかもしれない。

かずが俺の支えだった。

かずだって、そうじゃないのか?

かず、会いたい。

かず、会いたい。

かず、好きだ。




そして、この何もない町でかずと再会した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ