僕は君を連れてゆく
第28章 ハンプ
俺の家まではすぐに着いた。
引き留めたくて、自宅に誘いたくて。
でも、声がかけられなくて車から降りられなかった。
「…あの、さ…」
「ねぇ、雨だけど少しドライブする?」
「え?」
「あんなことがあったから、そんな気分じゃないかもしれないけど…俺、こういう日は必ず行く場所があるんだ。」
「付き合ってやるよ。」
かずは俺を見て、笑った。
それから、離れていた時間を埋めるようにたくさん話した。
かずはよく笑ってくれた。
研修医時代の話は俺が聞いても恐ろしいものだった。
それを耐えてきたんだよな。
少し、胸が熱くなった。
どうして、医者になったのか、
どうして、この町に来たのか。
この町はかずの母親の故郷なんだそうだ。
かずは母親が死んだことも知っていた。
「結局、自分の親でさえ死に時に会えないんじゃ、医者失格だよな…あんなのだって、俺の母親だからきっと寂しかったと思うんだ。」
そうだ。
お前は、かずは寂しがり屋なんだ。
母親に似て。
車は橋を渡って隣町に来た。
ここは大きな病院もあって線路も通っている。
線路を越えたら大きな公園にきた。
そこは墓地と繋がっている公園で毎日、誰かが
この場所にもう会えない人に思いを馳せている。
「母さんがここにいる。」
かずはしゃがんで手を合わせた。
そんなかずに俺は傘を傾けた。
しばらく、二人でかずの母親のお墓の前にいた。
「なんか、来ちゃうんだ。」
「わかるよ…落ち着く。」
シンと冷える夜。
暗闇の中にかずと俺の二人だけ。
「冷えちゃうね。行こう。」
一つの傘に二人で入る。
触れる肩にあの頃を思い出す。
大きな噴水があった。
今は冬だから水は出ていない。
夏になると子供たちで賑わうんだろう。
時間は深夜12時を過ぎた。
「付き合ってくれてありがとう。こんどこそ、送るよ。」
また、二人で車に乗った。