僕は君を連れてゆく
第34章 振り向かないで
卒業式が終わって誰もいなくなった学校。
俺はいつものように準備室の前で先生を待っていた。
「おい、どうした?こんなとこで。」
先生は今日もいると思わなかった!って驚いて
鍵を開けてくれた。
「卒業式のあとは打ち上げだって騒いでたぞ?」
「うん。あとで行く。」
俺は先生を見つめた。
先生は気がついてるんだ、俺の気持ちに。
そして、見ないフリをしてくれていることに
俺も気づいていた。
頭を撫でてくれる。
このときだけ俺に触れてくれる先生。
準備室の中は外の陽射しのおかげでとても暖かい。
「先生、今までありがとうございました。」
俺は頭を下げた。
胸に刺さったコサージュが頭を下げたと同時に
落ちて、カサっと音をたてた。
頭をあげないでそのまま落ちたコサージュを取ろうとしゃがんで、コサージュに手をかけたら俺の手に先生の手が触れた。
「「あっ…」」
「ごめん…」
「ごめんなさい…」
初めて触れた先生の手。
ドキドキしていた俺の胸はもっと、ドキドキして。
先生がコサージュを拾って俺の制服の胸ポケットに刺した。
「はい。」
「あ、ありがとうございます…」
最後にきちんと挨拶がしたくて寄ったのに。
それだけなのに。
生徒として、可愛がってくれていることは分かっていたからそれだけでよかったのに。
「…先生…」
「ん?」
「握手…してもらってもいいですか?」
「…もちろん!」
サッと出された右手。
俺は左手を出して先生の右手を握った。