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僕は君を連れてゆく

第34章 振り向かないで


握った先生の手は大きくて温かくて。

この手を離したらもう、会えない。

先生が握った手の力を緩めたのを感じて、俺は
力を入れた。

「二宮の手はやわらかいな。」

「え?」

「この手はこれからたくさんの夢とか希望を掴んでいく手だから。」

「夢とか希望…」

先生が俺の左手を両手でギュッと握手してくれた。

離れた先生の手。

俺は掌を見た。

俺のこの手に夢と希望を?

俺の夢…

それは…

「二宮はN大か…しっかりやれよ。バイトばっかりしてないで…」

先生は準備室にある机の椅子に座ろとしてるのか俺に背を向けて話している。

今日は跳ねてない…

「今日は…跳ねてないんですね。」

振り向こうとした先生に続けて声をかける。

「振り向かないで…」

先生はピタッと動くのをやめた。

動かないことを確認した俺は先生に近づいた。

「ここ。ここ、いつも跳ねてた…」

先生の襟足に触れる。

「おいっ…くすぐったい…」

先生は肩をすくめる。

「ここには…いつもチョークが着いてた…」

スーツの上から先生の肘から手首にかけて触った。

「…」

「いつも、見てた。」

ずっと、見てた。

先生を見てた。

「俺、先生が好きです。」

背中に向かって告白をした。

「最後だから、挨拶だけしようと思って来たんだけど…やっぱ、ダメだ…俺、先生が好き…大好き。」









先生は振り向かなかった。

俺が、振り向かないでって言ったから、
約束を守ってくれた。

触れた指先の感覚を俺は忘れない。

俺は先生が好きだった。

先生、さようなら。

先生、ありがとう。






       ーENDー

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