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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ


櫻井さんの電話番号を見て。

ため息ついて。

また見る。

発信ボタンをタッチしようと人差し指を出すけど画面に触れることは出来なくて。

2杯目のコーヒーを飲み終えたら携帯がメッセージの到着を知らせた。

それは、やっぱりというか、櫻井さんで。

そこには、“離婚が決まりました”と。

「………。」


あんなに心の広い、穏やかな人なのに。
そんな人でも人生を誰かと過ごすというのは
難しいんだ。

結婚を決めたときは、こんなに難しく考えたりしなかった。

潤と、ずっと一緒なんだ。
ただそれだけで。
婚姻届けに二人で名前を書いた時、
こうやって、隣に潤がいる。
この、一瞬の幸せは永遠になったんだって。

寂しい。
早く帰ってきて。
そう素直に口にしていたら、俺たちは変わっていたのかな。

俺の気持ちを分かってくれない潤にイライラしていたけど、潤はそんな俺にイライラしてた。

気持ちだけをぶつける俺に。

潤のこと、分かろうとしてなかったのかもしれない。

“俺たちももう終わりかもしれないです。
潤を怒らせてしまったから。
櫻井さんに迷惑をかけるかもしれません。
ごめんなさい。”

と、返信した。

入り口近くにいた男女はもういなかった。
テーブルの上は食事をしたあとがあって。
仲良く肩を並べて帰ったのかな。

携帯が震える。
着信は櫻井さんからで。

電話に出るべきか、出ないべきか。

「…もしもし?」

『どこ?今どこにいるの?』

少し焦ってるような、でも優しい声。

ファミレスの名前を告げた。

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