
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
こういうとき。
人は走るみたいで。
とにかく、潤に会いたかった。
家に帰ってみたけど部屋の電気はついたまま。
でも、潤の姿はなかった。
イスにいつも潤が羽織るシャツが。
俺はそれを手にして元の道を戻った。
「ってか、電話すればいいのか…」
普段の運動不足がたたってかなりの息切れ。
呼吸が整わない。
「どこにいるんだろ…」
駅を出て駅から続く公園に入った。
広場を囲う木々が風で大きくしなっている。
「なんか、怖い…」
広場の反対側に人がいる。
「じゅーーーん!」
その人がこちらに駆けてくる。
俺も。
「かず…」
「潤、ごめ…なさい。俺、俺、本当になんて謝ればいいか…」
「俺こそ、ごめん。」
俺の体は潤に包まれた。
「潤…俺、ひどいことした…ごめ…なさい。」
「俺も。和也のこときちんと見てなかった。」
手を引かれベンチに腰かけた。
「ここで、櫻井が買ってきたケーキの味見したんだって?」
俺は頷いた。
「そっか…誕生日も結婚記念日も正直、忘れてた。仕事が忙しいのは本当なんだ。櫻井からこれも聞いてるみたいだけど、アジアに今、営業かけてるところなんだ。それをどうしても成功させたくて…
でも、それは言い訳だよな。プレゼントが準備出来なくても、ケーキが用意出来なくてもおめでとうって言うことは出来たよな。
俺さ、なんで和也が子供、子供って急に言い出したのかわかんなくてさ…
子供って言われるたびに勝手にプレッシャー感じてたんだ。仕事も軌道に乗せなくちゃとかさ…」
潤は前を向いてゆっくり話す。
「お前を、和也を嫌いなったわけじゃないんだ。
勝手だろ?セックスはイヤだとか言っておきながら櫻井と二人で会ってるって知ったら、猛烈に腹が立った。この2ヶ月くらい和也と出会った時の事とか思い出しててさ。
俺、お前が大事なんだ。大切なんだ。
子供はもう少し待ってくれ。まだ、養える自信がないんだ。」
