
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
キスをするだけでこんなにも和也の俺への愛情を
知ることが出来るなんて。
腕のなかで震える体に少し戸惑う。
櫻井は言った。
「なぁ、松本…。先伸ばしにしたってどこにも進めない。いつか、また今度なんて来ないかもしれないんだ。」
先伸ばしにする。
それは良くとらえれば、距離を置くということ。
互いを思いやるために必要な距離。
だけど、俺達は少し、離れすぎたみたいだ。
それがこの和也の体の震えに出ているんだと思う。
和也を嫌いになったわけじゃない。
今でも、大切に思ってる。
言葉ではいくらでも言える。
それなのに、俺は…
目先の仕事に追われて本当に大切なものを失うところだった。
それに、もしかしたら、もしかすると櫻井と和也が…
頭のなかに二人がキスする映像が浮かんできて
慌てて頭を振った。
あり得ないだろ…
「帰ろう。」
和也は頷いた。
俺の後ろを下を向きトボトボついてくる和也。
立ち止まり振り返る。
右手を出した。
俺が立ち止まったことに気がつき、パッと顔を上げた。
その瞳はまだ潤んでいて。鼻は赤い。
あの日に戻ってやり直そう。
「和也…」
俺の手を握るのを躊躇っているのがわかる。
もう一度、右手を出した。
和也の俺より少し小さい手が俺の右手に重なった。
