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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ


潤の背中を見上げる。

もう少しで届くんだけど、触れない。

潤の泣き顔を初めて見た。声を殺して泣いていた。

その泣き顔を見たときに俺は潤を傷つけた、と。
俺のことだけを考えて欲しいと、そう思っていたのに傷つけた。
俺は最低だ。

「帰ろう。」

潤の優しい声。
強かった風はいつの間にかおさまっていて温い少し湿り気のある弱い風になっていた。

肌に触れる風はしっとりとしていてまとわりつく。

ふと、潤が足を止めた。
そして、俺に右手を出した。

その手に触れていいのか。

今すぐにでも飛び付きたい。
でも、いいの?

俺でいいの?

潤を見た。

赤い鼻。
乱れた髪。
少し伸びた髭。
俺の好きな優しい顔。

「和也…。」

名前を呼ばれる。
潤の右手に自分の手を重ねた。
ふんわりと包まれた俺の手。







「おかえり。和也。」
玄関のドアを潤が開けて。

「ただいま。」
靴を脱いで。

「おかえりなさい。潤。」

「ただいま。」

靴を脱いだとこを見届けてリビングへ行こうとしたら背中に温もりが。

「和也…」

俺の胸の前にある潤の腕。

「シャワー浴びてこいよ…」

耳元で熱い潤の声がする。
なんだか、ムズムズするような。

顔を合わせたら、潤の強い眼差しが俺に向いていた。

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