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僕は君を連れてゆく

第40章 沼

―said O


「じゃあなぁー大野!」

「マジで?帰るの?」

「しっかり、やれよー!」


みんな帰っちゃった…
引き留めてみたけど、やっぱり面倒くさいって誰も一緒に残ってくれなかった。

ばっくれちゃおうかな…

………

それは、ダメ。留年しちゃう。

時計を見ると帰りのHRからだいぶ時間がたった。

「行くか…」

教室を出て3階に行く。3階は音楽室や美術室、
工作室なんかが並んでいる。

音楽室は一番、端っこ。

ドアを開けた。

誰もいないと思ってたから。

誰かいたとしても、まさか、松本くんが。

松本くんがいるなんて思わないから。

ドアを開けた音で松本くんが振り返った。

「松本くん…」

「松本くん、どうして?」

松本くんは橋本先生に頼まれて、俺とクラスの自由曲を決めてくれるらしい。

橋本先生、おっぱいだけなんて思ってごめんね。

あまりの嬉しさに頬が緩んで仕方ない。

ずっと、ずっと、話をしたいと思っていたのに、
松本くんの質問にただ答えるだけで。

そんな松本くんは話ながらも俺の顔をずっと見て話してくる。

「俺の顔になんかついてる?」

嬉しさが隠せないことは自分でも分かってる。
ちょっと、気持ち悪いとか思われてるかも…

僕がそう言うと少し顔を赤くした。

「いや、別に…ってか、大野ってピアノ弾けんだね。」

「あ、うん。習ってたんだ。」

「いつまで?」

「中2まで。」

「へぇ~。いつから?」

「6歳から。」

「へぇ~。」

「それ、本当に聞きたいこと? 」

そう聞いたら、松本くんは大きな口を開けて大きな声で笑った。


あ…やっぱり、俺は松本くんが…

松本くんのことが…





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