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僕は君を連れてゆく

第40章 沼

―said M


「大野が弾きたいやつにすればいいじゃん。」

大野を可愛いと、思った自分に驚いて。

このまま二人きりでいることが、なんだか怖くなってきて。


「そうだな…これは?」

そう言って「ふるさと」のCDを手にとった。

ラジカセにそのCDを入れて再生ボタンを押した。

流れてきた曲は何度もテレビで流れたから聞いたことがある。


ひと通り、聞いて。

歌い出したんだ。

淀みのない透き通る声。
突き抜けるような高音も、鼻に抜けるような裏声も。

あまりの歌唱力に俺は開いた口が塞がらない状態。

「これ、歌うにもいいね。」

立ち上がりピアノを弾き始めた。

後を追うように立ち上がって大野の指の動きを見ていた。

大野は長く綺麗な指をしていた。
特に人差し指は第二関節が他の指より少し太くて。

曲が終わり鍵盤から小指が離れた。

「すげぇー!大野、すげぇー!大野、歌、めちゃくちゃ上手いんだな!」

頭をぽりぽりと掻いて分かりやすく照れる大野に
俺はまた、可愛いと思った。

「ありがと。」

「歌も習ってんの?」

「習ってないよ。」

「めちゃくちゃ上手いよ?音楽の授業、普通にやれば赤点にならないんじゃないの?」

「普通にやってるつもりなんだけどね。」

「やってねぇよ。いつも寝てるじゃん。何度も先生に起こされてるじゃん。」

「そうだっけ?」


「他のも歌ってよ。」

気がついたら、催促してた。

しぶしぶ、頷いてくれて校歌や懐うた、アイドルの歌とか、歌ってもらった。

歌が終わると俺はひたすら拍手して、すげぇー!と褒めて。
褒めると笑って恥ずかしそうにするその顔が見たくて。

また、褒めて。





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