テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第40章 沼

―said M




課題曲は「ふるさと」にした。

帰り道、大野と並んで歩く。

「なぁ、ピアノ、他のやつに弾いてもらおうぜ。大野は歌った方がいいって。」

「もう、いいってその話は。」

並んで歩くと、大野って思ったより背が低いな、とか。
夕陽に照らされた髪はやっぱり、キラキラしてて。

今日、数時間過ごして大野の印象は変わった。

「松本くんって、やっぱり、優しいんだね。」

「え?」

ここで別れるっていうところで話始めた大野。

「松本くん、交際してる人いる?」

「え?」

「いるの?」

「いないけど…」

「そっか…」

「ん?」

「ううん。今日は付き合ってくれてありがとう。
じゃぁ、また。」

顔の横で小さく手を振った。

「あっ!これからも、よろしくね。」

ペコリと頭を下げて走っていった。

交際してる人って
好きな人とか、付き合ってる人いるの?とか聞くだろ?


やっぱり、間違いだ。

あの、大野を可愛いと思ったことなんて。

向こうへ歩いていく大野の背中。

ピアノを弾いたときの大野の指。

長袖のワイシャツを腕捲りしていて白いワイシャツのせいかとても日焼けして見えた腕。
筋肉もきちんとついていて男の腕をしてた。

それなのに、奏でる音楽は優しくて、心地いい。

大野と一緒。


たった数時間、大野と一緒に過ごしただけなのに
その時間はとても心地よかったんだ。

でも。

それと同じくらい怖い時間だった。


心地よいと感じると同時に俺の心がどんどん
大野に近づいているのが分かったから。




ストーリーメニュー

TOPTOPへ