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僕は君を連れてゆく

第40章 沼

―said M



「おはよう!」

改札を出てすぐ、大野がいた。

「おはよ…」

大野って電車なんだっけ?

「松本くん、昨日は付き合ってくれてありがとうね。」

「あ、うん…」

大野って朝からこんなにしゃべるんだっけ?

「大野!っはよー!」

「あっ、おはよ!」

てっきり、隣に並んで教室まで行くのかと思っていたら、同じクラスの岡田に声をかけられて岡田と並んで歩き出した。

「………」

…別に、普通だし…

岡田と教室でもいつも一緒にいるんだし、俺と並んで歩くより…

ん?

俺は大野と並んで歩きたかったのか?

前を歩く岡田と大野。

時々、笑いあい肩を叩いたり。

…別に普通だし…

「なぁ!」

「なぁっ!」

「大野っ!」

「うん?」

クルっと振り返る。茶色の髪がフワッと揺れて
朝陽に照らされてキラっと光る。

「聞こえただろ?」

何度も呼んだんだぜ?

「でも、俺たちに話しかけてるなんて思わなかったよね?」

と、岡田を見る大野。

「松潤も昨日、音楽室に行ったの?」
岡田は思い出したように言った。

「え?」

「だって、橋本先生と話してたろー。」

「いなかったよ。」

「え?」

「松本くんはいなかったよ。」

大野はハッキリとした口調で言った。

「そうなの?てっきり、松潤も呼び出しくらったと思ってたー」

下駄箱について、上履きに履き替える。

なんで、俺が音楽室にいること黙ってるんだろう。

別に言ったっていいじゃん。

それとも、岡田に言えない理由が?

ワイシャツの袖を引っ張られる。

「あ?」
引っ張られた方を見たら大野がいて。

大野は俺を見て、人差し指を唇に当てた。

そして、
「俺と松本くんの、ひ・み・つ、ね?」

と、岡田に気づかれないように小さい声で言った。

俺は頭を縦にふった。


ひ・み・つ


俺と大野の。



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