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僕は君を連れてゆく

第40章 沼

―said M


なんでだよ、なんでこうなった。

クラスのみんなが拍手してる。

「大野、良かったな!」

岡田は大野の頭を撫でていて、大野はされるがまま嬉しそうに八重歯を見せて笑う。

「じゃぁ、合唱コンクールは大野にピアノ、指揮は松本にお願いする。うちのクラスは前の音楽室、わかるか?今は準備室になってる。そこのピアノで練習だから。」

準備室って…あのさびれたとこだよな…

「今日、一回、大野のピアノで合わせて歌ってみよう!」

朝、学校に着くなり中居先生から呼び出しをくらった。
そして、指揮者をやってもらいたいと、頭を下げられた。

大野がヤル気を出してるのは俺のおかげらしく。
最近は真面目に授業もでてるし、遅刻もなくなったと。
だから、それをこのまま維持できるように見ててやって欲しいと。
ピアノをやりきったら、大野の自信に繋がってこのあとの進学の時にも役に立つはずだからと。

そして、俺は中居先生の熱心な説得にいやだ、なんて断れるわけもなく、それに従った。

「松本くん、ありがとうね。」

嬉しそうにハニカミもじもじしてる大野。

「練習に付き合ってくれる?」

「付き合う?あ、練習をね…うん、もちろん。」

「付き合ってくれる?」と言われ、交際を申し込まれたのかと思った。
んなわけないのに、大野の言動にイチイチ反応してしまい、正直、疲れる。

「ヤル気出てきたぁー!」
と、ガッツポーズをし岡田とまっけんとハイタッチまでした。

「ヤル気」それは、ピアノの練習のヤル気で
そーいうヤル気ではない。
だけど、もう、そういう風にしか聞こえない。

ボッーと大野を見てたら、大野が俺を見た。

そして、「あ・り・が・と」と口パクで伝えてきた。

「ひ・み・つ」と言われたことを思い出して、体中が熱くなった。
大野のそれに返事をしないですぐ席に戻った。

この間、スティックパンを大野に食べさせた。
俺を見つめたまま口を開く大野。
スティックパンをその口の中に入れた。
すぼまった口。シワのよった唇。

それが頭から離れなくて…


もう、頭のなかで俺は…
大野に…
大野と…



「どういう風の吹き回し?」

「え?」

「やだってずっと、言ってたのに…」

「じゃぁ、まっけんやってよ。」

「応援するよ!色々と、ね?」

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