僕は君を連れてゆく
第40章 沼
それから、放課後は合唱コンクールの練習をして。
帰りは一緒に帰った。
あの日以降、そういう雰囲気にはならなくて。
あの日以降、キス…していない。
「いよいよだね…」
「そうだね。」
明日が合唱コンクールとなった今日。
これが終わると受験一色になる。
「緊張とかする?」
大野を見てるといつも柔らかい空気?オーラみたいなのがあって、誰の前でも変わらない。
そこが、いいなって思う…
「うーん。あんまりしないかなぁ~ でも、ピアノ弾く直前とかにするかもね~」
歩道の白線の上をまるで綱渡りしてるみたいに両手を広げ俺の前を歩いてる。
トットットッとテンポよく歩いていたと思っていたら、その音がピタッと止まったと思ったら両足を揃えクルっと俺の方を向いた。
「松本くんがいるもん!違う意味でドキドキしちゃう!」
そう言う、大野の目は熱く揺れていた。
そんな、目で見ないでよ…
「な~んて!」
そんなの、俺だっておんなじだ。
目の前で大野がピアノを弾いていて、たまに
俺と目をあわせてくる。
合唱がひとつにまとまるように、俺の指揮と合わせるためにってことは分かってるんだけど。
なんか、やっぱり違うんだ。
俺が大野をどんな目で見てるのか。
大野が俺をどんな目で見てるのか。
「大野…」
「うん?なぁに?」
ゆっくりと大野に近づく。
立ち止まり俺を見ていた大野の手を握る。
「松本くん?」
「そんな顔で見んなよ…」
「松本くんだって…」
少し屈んで、大野にキスをした。
「…っごめっ!」
「なんで、謝るの?俺、幸せ。」
自分が取った行動が恥ずかしくて思わず、謝った。
でも、大野は謝った俺の口をまた塞いだ。
チュッとされて、頬にもキスされて。
「明日、頑張れそう!」
「…おぅ!」
誰もいないから、分かれ道まで手を繋いだまま
歩いた。
「また、明日ね。」
俺は大野に手を振りかえした。