僕は君を連れてゆく
第40章 沼
こんな時間にうちに来るやつ。
あいつしかいない。
「松本くん!」
大野は制服のままだった。
「家、帰ってないのか?」
「帰ったんだけど…なんか、落ち着かなくて。ご飯食べたりしてても松本くんのことばかり考えちゃうから泊まりに行くって言って出てきた。」
「どこに泊んの?」
「ね、どうしよ…」
エヘヘと笑う大野の顔を見たら。
「…母さん、これから出掛けるんだ…家で良ければ、とま、泊っていけば?」
「…っえ?」
「他、あんのかよ…行くとこ…」
大野は八重歯を見せて笑う。
「松本くんのとこしかないよ。」
母さんに大野を泊めることを話して。
「じゃあね、潤、戸締まりしっかりね?大野くん、ごめんなさいね。」
母さんは大野に何度が謝って、めかしこんで出ていった。
何度か家に来て、宿題したりしたことはあったけど。
下にいつも母さんがいたから。
俺の部屋まで来たら
「二人きりだね。」
と、大野は言った。
俺はゴクリと音を立てて唾を飲み込んで…
「そ、そーいうこと、言うなよっ!」
「だって、本当のことだもん。」
大野って、やっぱりそうなんだ。
俺ばっかり、緊張したりしてて…
「潤のお母さんって綺麗だよね。」
い、今、なんて?!
「へ?」
「潤はお母さん似なんだね。」
部屋のドアを背中に感じる。
「ここ、ほくろ、同じところにあるんだね。」
と、俺のほくろを撫でる。
そうなのか?
そして、チュッと音を立ててほくろにキスをする。
鼻、まぶた、顎の先…
「…鳥かよっ!」
「アハハハ!」
チュッ、チュッ、チュッって鳥みたいなんだよ!
しかも、大笑いしてやがる。
「まっけんくんが潤って呼ぶから俺も潤って呼ぶことにした。」
「あ、そう…」
「まっけんくんとは友達なんだよね?」
「え?」
そういえば、ファミレスでも気にしてたって言ってたな…
「妬いてんの?」
まさかな…
大野は、顔を赤くした。
マジで?まっけんに?
「アハハハ! 」