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僕は君を連れてゆく

第41章 理由

Sho

「はい、じゃぁ、バンザーイ!」

回転椅子にチョコンと座る男の子。

「次は背中です。はーい、くるん!」

聴診器を小さい背中に当てる。

「うん。いっぱい、食べてるかな?」




「櫻井先生、午前中の外来おわりです。」

ナースに声をかけられ、背もたれに背中をつけて、
体を伸ばした。

時計の針はお昼をとっくに過ぎて、まもなく14時になろうとしている。

木曜日は午後は外来がないからだいたい、いつもこの時間になる。

「飯、飯!」

午後は入院患者の診察とスタッフカンファレンス。
症例研究の続きもやりたい。

食券を買ってカウンターに出す。

「櫻井先生、お疲れ!」

食堂のおばちゃんが俺のトレーにかけそばとおにぎり二つを置いた。

「サービスね!」

と、プリンが。

ラッキー!

タブレットを使い、入院患者のバイタルを確認してた。
そばを啜りながらおにぎりも食べて。

ピッチが鳴った。

「はい、櫻井。うん。え?まいちゃん?」

いつもそう。

最後までゆっくり食事出来ることなんてない。

「すぐ、行く!」

プリンをかきこみ小児病棟へ急いだ。


830号室のドアを開けたらベッドの周りは人で溢れていて。

「先生!まいちゃん、目を開けました。」

ナースの声にベッドを取り囲んでいた人たちが俺に道をあけた。

「まいちゃん?聞こえる?」

右手首の内側、親指側の橈骨動脈に俺の人差し指、中指、薬指を立てて当てる。

「脈も安定してるね…胸の音、聞こうか。」





830号室のまいちゃんは、交通事故で救急搬送された。
頭を強く打っていて、急性硬膜化血腫で脳が圧迫されて呼吸機能が低下していた。

血腫の除去のオペは問題なく終わったがそのあと、
なかなか呼吸状態が安定せず人工呼吸器を装着していた。

「呼吸器、外しましょうね?」

諸々、診た結果、人工呼吸器の離脱、抜管は出来ると判断し。

家族は泣いて喜んでくれた。

「ふぅ。」

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