テキストサイズ

僕は君を連れてゆく

第41章 理由

Sho

「じゃぁ、お願いします。」

小児病棟の看護師長が患者の状態を話していく。

もう、終わりそうというところで救命の松本先生が入ってきた。

目を合わせて頷く。

何日ぶりだ?

目で追っていくと一番後ろのパイプ椅子に座った。

久しぶりに見た松本先生。

やや伸びたひげに乱れてる髪型。

昨日の夜は眠れなかったのかな…

今日は上がれるのかな…



ダンっ!
と、カンファレンス室のドアが開いた。

「櫻井先生!まいちゃんが!」



容態の急変を伝えにきたナースと830号室に走る。

なぜだ?

なんでだ?

830号室のドアを開けたら真っ白な顔のまいちゃんがいて。

他の先生たちが色々手を施してくれたようだった。

かけ布団から覗く小さな手を握る。

「まいちゃん…」







まいちゃんは空へお散歩へ出掛けた。

俺は小児内科医となってから、死と向き合う子供たちとたくさん、接してきた。

死をどのように伝えるか。

俺は“空へお散歩”と表現している。

入院する子供たちは行動に制限をかけられる事が多いから死を迎えたあとは自由に空へお散歩して欲しいと。



でも、いつもやるせない。

何が足りないのか。





「ここだと思った…」

もう使われなくなった喫煙室。

振り返ると松本先生がいた。

さっき、見たときは疲れが体中から滲み出ていたのに。

俺を心配そうに見つめるその瞳。

「潤…」

思わず、名前を口にした。

「あ、いや…」

潤は口ごもる俺を抱きしめた。

「お疲れさま。」

背中をポンポンと叩く。

「あ…うん…え?」

こめかみに唇を寄せてきて…

「ちょ…え?…おいっ!」

その唇が俺の唇を塞ごうとしたから慌てて胸を押した。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ