僕は君を連れてゆく
第42章 MJ倶ラブ
「あの、俺、どうやって…」
部屋から出ていこうとする彼に声をかける。
「覚えてないの?」
鋭い眼差しから逃げられなくて…
でも、この眼差し…昨日も…
ジッと見つめると体が熱くなってくる。
「お、覚えてないっていうか、記憶が…」
「ごめん…俺のせい…」
俺はベッドの上で体育座りをして膝を抱え込む。
彼はベッドを回って俺の隣に腰かけて俺の頭を撫でて謝ってきた。
「俺のせいって…?」
「あまりにいい声で啼くから…つい、攻めすぎちゃった…」
頭を撫でていた掌が後頭部へ。
後頭部から首へ。
首から背中へ。
「…ぁあ、」
「体は覚えてるみたいだよ?」
そのまま指が背骨を伝っていく。
「ここ、俺を受け挿れてくれたよ…」
と、おしりの割れ目に指が…
嘘…
本当に?
「っん…やぁ…ん…」
「そんな声だして…誘ってる?」
耳の縁を舌でなぞられ囁く。
思い出した…
あんな、気持ちのいいこと知らない…
彼が、誰なのかわからない。
名前を聞いておけばよかった、と後悔している。
帰り際、渡された名刺。
そこには彼の名前は書いてなくて、あのbarの名前が書いてあった。
彼に抱かれた日を思い出しては一人で慰める日々。
同じ道を通ってもあのbarはみつからないんだ。
「くそっ、また終電逃した…」
少し、涼しくなった夜道で途方にくれる俺。
タクシーで帰ろうかと大通りへ足を向けた。
ふいに、スレ違った人からする匂いに覚えがあって…
思わずその腕を掴んだ。
その人は柔らかく笑ってくれた。
新しい出会いだった。
【翔ver.おわり】