僕は君を連れてゆく
第43章 仰せのままに
馬車に揺られること小一時間。
縫い師の店まで行く途中。
姫は珍しく髪を下ろしていて綺麗な黒髪が風でそよそよと踊っている。
姫はあまりドレスを好まないので今日もシルク素材のワンピースを着ている。
胸元も開きすぎずに、ボタンの装飾だけだけど、生地のおかげか、とても清楚で似合っている。
「ショウ。あとどれくらい?」
「あともう一時間くらいです。」
「遠いなぁ。」
「向こうから屋敷に来るように次回から手配いたしましょうか?」
「…そういうわけじゃないよ…」
「…まさか、ご自分で馬に乗りたい!とか言うんじゃないでしょうね?」
「そんなこと言わないよ。そうしたら、ショウは来れないでしょ?」
そう、私はあまり馬に乗ることが得意ではない。
なんなら、馬があまり得意ではない。
「昔から、動物が苦手でしょ?だって、俺がショウに庭の鳥を見せようと連れていったら一斉に飛んでさ…ショウ、腰抜かしちゃって…あれは、笑ったなぁ…」
よく、まぁ、そんな昔のことを…
口に手をやり笑う姫。
こうやって、無邪気に笑う顔が私は好きだ。
ん?
え?
「怒ってる?」
「は?え?」
「なに?そんな、慌てて…昔のこと話してるから、怒ってるの?」
「そういうわけでは…」
姫は長い髪をかき分け馬車の窓の外に目をやった。
「少し、寝るわ。」
姫は目を閉じた。
私は、姫の…
おそばにいたい、と思っている。
だけど、それは世話役として、ではなくて。
それ以上の気持ちがあったなんて…
姫。
ピンクの紅がひかれた唇。
閉じた瞼にかかる睫毛。
そうか。
そうだったのか。
姫をそういう対象で見てるなんて。
燃え上がり始めた熱を抑えつけようと、自分も目を閉じた。