僕は君を連れてゆく
第43章 仰せのままに
このまま、時が止まればいいと思った。
このまま、ジュンと二人で…
雨が止み納屋の中は何の音もしない。
「ショウが“俺”って言うの久しぶりに聞いた。」
嘘?
“俺”って言ってた?
「俺の世話役になった途端、“私”って。すごい寂しかったんだよね。」
どうしてそうしたのか、わからないけど。
そうしないと、って。
「姫って呼ばれるのも嫌いじゃないよ?でも、二人きりの時はジュンって呼んで?」
この人は、こんなに可愛い人だったのか。
「はい。畏まりました。」
「あと、その敬語。どうにかならない?」
ジュンは少し眉を潜める。
「なぁんて。そんなに欲張ったらダメだよね。」
舌を出しておどけて見せたけど。
「ジュン…」
抱き締めた背中はやっぱり、小刻みに震えている。
「好きだ。」
ゆっくり、遠慮がちに背中に回る腕。
「姫が…ジュンが、ずっとそばにいろってそう言えば私はずっと、あなたに仕えます。」
「ずっと…俺のそばに…ずっと…」
背中に回された腕に力が入った。
それに応えるようにジュンの背中に回す腕に力を込める。
どれくらい、そうしていたか。
ジュンは俺に抱きついたまま眠りについてしまった。
迎えが来るから、通りまで行かなくては。
「ジュン、起きて。」
寝顔をこんなに近くで見るのもいつぶりだろうか。
寝息をたてるその唇を俺ので塞ぐ。
しっとりと柔らかく温かい。
「…ん…」
パチリと目が合うと、微笑んだ。
「行く?」
「歩けますか?」
「大丈夫。」
一人で立ち上がり納屋を出るジュン。
「綺麗だよ。空が。」
見上げて両手を目一杯に伸ばす。
後を追って空を見上げたら、満天の星空だった。
「綺麗だろ?」
振り返った。
「はい。とても。」
馬が戻ってくるまで私が母に聞いたジュンが生まれたときの事を話した。
あの日もきっと、こんな満天の星空だったに違いない。