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僕は君を連れてゆく

第45章 ただ、ただ、愛しい

診察室

先週、一年ぶりにした採血の結果を見せられる。


「えっ…」

俺も、母さんも言葉を失った。

「君はΩですね」

………


………


………


「そんな…」

「待ってください!もう一度、検査してください!この子はαなんです!Ωなんて…そんなことあるわけないんです」

母さんが鬼のような形相で医者の胸ぐらを掴んでる。

「落ち着いてください、稀にあるんです。受け止めないと」

母さんは脱力して医者の前で崩れた。

「ヒートが訪れなかったのは精神的なものも関わってくる。君はまだ、体の線も細い。だけど、これからは十分に気を付けるように。君の体は君が守るんだ」

医者は俺の前にピンクのカプセルを置いた。

「抑制剤だ。一日、1つ飲むんだ」

目の前の出来事がゆっくり、スローモーションがかかったようで。

何を言ってるのか。

俺に向かって言ってるのか。

「君は今までαとして、生きてきたかもしれないがそれと同じようにΩでも生きていける。
それは、君次第だ」



診察室を出たら、雅紀も雅紀の母親も深刻な顔をしていた。

俺らにかける言葉が見つからないんだろう。

そりゃあ、そうだ。

今の今まで、Ωである雅紀をかわいそうと思ってきたんだ。

それが、それが、
この俺が、Ωだなんて…

俺も、かわいそうだ。

まさか、こんなことが起こるなんて。

雅紀が誰にでも優しくて、努力家で、真面目なのはΩだから。

俺にも、みんなに優しくしろって?
部活も委員会も真面目にやれってか?

ふざけんな



「相葉さん、相葉雅紀さんどうぞ。お母さんも一緒にどうぞ」

俺たちを置いて、雅紀たちが診察に入っていった。



ガタンと大きな音がして、診察室の閉まっているドアを見やる。

「そんな…」

と、雅紀の母親の声がする。




それは、俺が考えもしなかったことだった。





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